鹿児島大学が、がん細胞だけを殺すウイルス治療法を開発中 だと?

virus健康・医療

がん細胞だけを殺すウイルス 鹿児島大学が開発

MEDLEY 2015年5月30日
Journal: Journal of translational medicineより

鹿児島大学の研究班が臨床試験に向けて準備中の、がん細胞の中でだけ増殖するウイルスを使ったがんの治療法が最近報道されました。この治療法をマウスの実験で試し、効果を確かめた2014年の論文を紹介します。

◆横紋筋肉腫幹細胞(RSC)を標的に

この研究よりも前の研究で、研究班はがん細胞の中でだけ増えている「サバイビン」という物質があると増殖して細胞を殺すウイルス「Surv.m-CRA」を開発していました。
研究班は、横紋筋肉腫という筋肉にできるがん(悪性腫瘍)を、Surv.m-CRAによる治療の目標としました。特に、横紋筋肉腫に含まれている「横紋筋肉腫幹細胞」(RSC)という細胞を殺せるかどうかに注目しました。
がんができるときに、「がん幹細胞」という細胞が元になって、さまざまな種類のがん細胞が生まれるという説があります。RSCは、横紋筋肉腫のがん幹細胞と考えられている細胞で、横紋筋肉腫の細胞は大きくRSCと「子孫細胞」に分けられます。
RSCからすべての横紋筋肉腫の細胞が生まれると仮定すると、治療によってRSCを根絶できれば、横紋筋肉腫の細胞がさらに増えるのを止められることになります。
研究班は、培養した横紋筋肉腫の細胞を使う実験で、次の4種類の細胞集団を作りました。
・RSCだけの細胞集団
・RSCが多い細胞集団
・RSCが少ない細胞集団
・子孫細胞だけの細胞集団
これらにSurv.m-CRAを与えることで、Surv.m-CRAが細胞を殺すかどうかを調べました。

◆RSCに対して強い効果、マウスでも

実験の結果、以下のようにSurv.m-CRAが横紋筋肉腫の細胞を殺すことが観察されました。
Surv.m-CRAは、すべての横紋筋肉腫の細胞集団の中で有効に増殖し、細胞死を強く誘導したが、細胞を殺す効果はRSCを少なくした細胞集団または子孫細胞だけに純化した細胞集団に対してよりも、RSCを多くした細胞集団またはRSCだけに純化した細胞集団に対してより明らかに現れた。
このように、Surv.m-CRAはRSCと子孫細胞の両方を殺す働きを示しましたが、特にRSCが多い細胞集団と、RSCだけの細胞集団に対して強い効果が見られました。
Surv.m-CRA続いて研究班は、次のとおりマウスを使った実験を行いました。
RSCを多くした細胞集団をマウスに移植することによって生成された腫瘍塊にSurv.m-CRAを注射したところ、横紋筋肉腫の細胞の細胞死と、腫瘍塊の縮小が有意に誘導された。
マウスに横紋筋肉腫の細胞を移植すると、細胞がマウスの体の中で増えて横紋筋肉腫になります。できた横紋筋肉腫にSurv.m-CRAを注射すると、横紋筋肉腫の細胞が殺されていることと、横紋筋肉腫が小さくなることが観察されました。

細胞の実験と動物実験がともに成功したことで、実際の患者に対する治療として試す道が開けました。人間の体の中で期待した通りの効果が出るかどうか、また深刻な副作用がないか、試験の結果に期待がかかります。
◆参照文献
Survivin-responsive conditionally replicating adenovirus kills rhabdomyosarcoma stem cells more efficiently than their progeny.
J Transl Med. 2014 Jan 27

2014年の論文からの解説だが、簡単に言うと「がん細胞から出る物質を標的としてその物質で増殖するウィルスを開発し、そのウィルスでの治療法を細胞実験とマウスの実験で実施して有効性を確認した」ということだ。がんは本来通常の細胞が持つ「健康な死に方」であるアポトーシスが不全になり、ふだんなら取り除かれているがん細胞やその予備軍などの異常細胞を取り除けなくなることから始まることが多い。細胞にアポトーシスを起こさせるシグナル伝達経路を構成する一群のタンパク質分解酵素はカスパーゼといい、カスパーゼの活性化が阻害されアポトーシスが抑制されれば当然不全になり、がんが登場することになる。このアポトーシスの不全に現れるのがサバイビンというタンパク質だ。サバイビンは癌細胞で高度に発現しているのに対し、健康に分化した細胞ではほぼ発現が見られない。癌細胞において、サバイビンの機能を破壊すると増殖が止まりアポトーシスが誘導されることから、サバイビンは癌治療において格好のターゲットとされている。この研究もそこに着目したもので、薬品でなくウィルスでというのが面白い。人間には本来白血球の一種である食細胞「マクロファージ」が細菌、ウイルス、死んだ細胞等の異物を取り込んでキレイにしてくれているが、その役割をがん細胞標的に特化したウィルスで行うというのは良い着眼点だろう。ウイルスが名医になるとは。是非副作用やウィルス自体の暴走をなくした治療法の完成を期待したい。さらにはこの手法の他のがんへの応用も期待したいものだ。