朝日新聞 2015年5月6日
人体に無害な光(近赤外線)を当ててがん細胞を壊す新しい治療法を米国立保健研究所(NIH)の小林久隆・主任研究員らが開発し、患者で効き目を調べる治験(臨床試験)を近く始める。光を受けると熱を出す特殊な化学物質をがん細胞の表面に結びつけ、がんだけを熱で狙い撃ちする。
この治療法は「光線免疫療法」。小林さんらが2011年、マウス実験だと8割でがんが完治したと発表。副作用が少ない新治療法になると注目を集め、オバマ大統領が翌年の一般教書演説で取り上げた。今年4月末、米食品医薬品局(FDA)が治験を許可。通常、動物実験から治験開始まで早くても5年以上はかかるとされており、今回は異例の早さだという。米製薬ベンチャーと組んで準備を進め、新興企業に投資するベンチャーキャピタルなどを通して約10億円の資金も確保した。
治験ではまず、近赤外線を受けて発熱する化学物質を、特定のがん細胞に結びつくたんぱく質(抗体)に結合させた薬を患者に注射する。最初は、首や顔にできる頭頸部(とうけいぶ)がんの患者10人前後で、近赤外線を当てずに副作用などがないことを確認。その後、患者20人前後で、近赤外線を当てて効果を調べる。3~4年後にがん治療薬として米国での承認を目指す。
少し前の情報であるが、非常に期待を持てる治療法だ。一つには副作用が少ない点。近赤外線はテレビのリモコンなどでも使われている十分に枯れた技術。今の所近赤外線が強い有害性を持つという話は聞いたことがない。可視光線に近い波長で太陽光の成分として地表に降り注いでいる。とはいえ、あまり長時間浴び続けると肌の老化現象にも影響を与えるが。この治療法では、標的であるがん細胞の特有の箇所(上皮細胞増殖因子受容体・EGFR)に選択的に結びつく抗体(タンパク質)と、波長700nmの近赤外線を受けると化学変化を起こす「近赤外光蛍光色素IR700(フタロシアニン)」という色素をセットした薬がポイント。これによりがん細胞を選択的に標的化でき、近赤外線の熱で細胞の増殖を抑えたり破壊するという。2011年の発表時に話題となり、記事に書かれているように大統領演説でも取り上げられるなど、その期待は大きかった。FDAの認可が下りたことで数年後の治療薬の承認が見込まれるが、多くのがん患者への福音となるよう期待している。