左遷! さらば、NHK『ニュースウオッチ9』大越キャスター エースはなぜ飛ばされたのか(その1)
現代ビジネス 3月30日(月)
ときに政権への独自の見解をさしはさむなど、お堅いNHKの報道番組のキャスターとしては異例の存在だった大越健介氏が、3月末に降板する。唐突な異例人事の裏側でなにが起きていたのか。
前例のない交代劇
「まさに青天の霹靂でした。NHK局内の現場でも、誰もこのタイミングで大越さんが降りるとは思っていなかった。まさに異例のキャスター交代ですよ」
こう語るのはNHK報道局の記者。夜の報道番組『ニュースウオッチ9』で5年にわたってキャスターを務めてきた大越健介氏が、3月いっぱいでキャスターを降板することになった。『ニュース9』といえば、NHKの看板番組、そのキャスターである大越氏はNHKの「夜の顔」だが、今回の人事の経緯には不可解な点が多い。
「NHKでは、毎年10月か11月頃に『キャスター委員会』という会議が開かれます。『ニュース9』や『おはよう日本』『あさイチ』といった番組のメインキャスターを誰にするかを話し合う場で、翌年春の番組改編などでキャスターが代わる可能性があれば、そこで新任のリストが挙げられ議論される。
昨年の委員会では、『ニュース9』に関してキャスター交代の話が持ち上がらなかったので、当然、大越さんは留任するものだと皆が思っていた」(前出の記者)
ところが、年が明けてから突然、大越氏が交代するという報道が出た。NHK職員のほとんどが、報道で彼の交代を知ったのだ。あまりに唐突な話だったので、NHK上層部が官邸の意向をうかがって行った特別人事ではないかと見る向きも多い。NHK関連会社の幹部が語る。
「大越さんは昨年暮れ、上層部から呼び出され、降板を言い渡されたそうです。本人も寝耳に水だったので、なぜこのタイミングなのか、もう少しやらせてもらえないかと食い下がったが、決定は覆らなかった。表向きは通常の異動による交代ということになっているが、事実上の『左遷』といっていい人事で、本人も煮え切らない思いでいっぱいのようです」
大越氏は’61年、新潟県生まれ。東京大学在学中には野球部のエースとして活躍した。’85年、NHKに入局し岡山支局を担当した後、政治部記者として頭角を現していく。
政治部では自民党の旧経世会(現・平成研究会額賀派)を担当した。経世会は放送局に影響のある郵政族議員を数多く輩出してきた田中角栄系の主流派閥。その担当記者は、政治部の出世コースといえる。当時の大越氏を知る全国紙の編集委員が語る。
「橋本龍太郎首相や野中広務官房長官(共に当時)の担当記者として活躍していました。野球部出身だけあって体力には自信があるようで、とにかくガッツで取材をするタイプ。NHKの政治部記者というと、政治家にすり寄っていく官僚タイプが多いのですが、大越さんは違った。取材で疲れてくると下ネタを連発して大笑する、豪放磊落な記者でしたね」
アメリカ総局ワシントン支局長などを経て、’10年3月より『ニュース9』のキャスターに。ニュースの末尾に独自の見解をさらりとさしはさむスタイルは、NHKのニュースキャスターとしては珍しく、話題を呼んできた。珍しくモノを言える人
いうまでもなく、公共放送のNHKの報道は公正中立を第一の原則とする。だが、大越氏は単にニュースを垂れ流すだけの報道では満足しない「モノ言うキャスター」だった。大越氏はかつて、本誌のインタビューに答えている。
「政治に対しては多少モノを言いたいと思うし、原発事故に関しても、やっぱり言うべきことはきちんと言いたい。NHKだから無味乾燥でいいということは、絶対にないと思いますから」
実際、大越氏は特定秘密保護法や原発再稼働について番組内で意見を述べることもあった。とりわけ、安全保障や外交面では安倍政権に対して批判的な立場だ。前出の報道局の記者が語る。
「大越さんは、NHK政治部の記者としてはリベラルな人。普段は立場をわきまえて言いませんが、仲間内で飲んでいるときには、『こんな政権はさっさと潰れたほうがいい』と公言するほどです。
政治的に右か左かという以前に、報道機関として政権に批判的な意見も公平に流さなければならないという、ジャーナリストの矜恃がある。よくイギリスのことを引き合いに出して、『BBCは公共放送でも政権にきちんとモノ申す。NHKも政権の犬になったらおしまいだ』と語っています」
番組降板が決まってからも、そんな大越氏の意地が見える場面があった。
「3月5日の放送では経世会の大物だった野中さんを引っ張り出してインタビューしていました。野中さんは現在の菅義偉官房長官が憧憬していると言われる辣腕官房長官でしたが、憲法改正や集団的自衛権の問題では安倍政権に批判的で、大越さんとは肝胆相照らす仲です。彼を出演させたことは、官邸へのメッセージとも取れる」(NHK元政治部記者)
大越氏はあくまで公正中立な報道を心がけているだけだが、公共放送をハンドリングすることを目論む官邸としては面白くない。ある大手紙政治部記者が語る。
「安倍首相は公邸か自宅で9時のニュースを見ることが多いのですが、大越キャスターの話すことがいちいち癪に障るみたいです。一度、私が公邸で同席したときには、大越さんがコメントを始めると舌打ちして『また始まったよ』とぼやいていました」官邸にとって「目障り」に
戦後70年という節目を迎える今年は、安倍談話の発表があるし、集団的自衛権についても議論が白熱するだろう。官邸にとってみれば、そんなデリケートな時期に、大越氏のような人材は目障り以外の何物でもない。 「週刊現代」2015年4月4日号
以前にもこの件は取り上げている。が、長文の引用だが、この件に関してはクリップしておかないといけない。ここまでやりたい放題の独裁的な人物は近代、現代の日本史上でもまれに見る人物だからだ。表面上はスピーチライターの書いた原稿を早口に読み上げるだけの世襲のボンボンだが、こと政局(ライバルの封じ込め)やマスコミへの間接的な圧力となると、抱えているブレーンたちの能力、腕力もあるのか、寒気すら感じる。かつて紹介しているが、我が国の報道の自由度が安倍政権になってから、文字通り東アジアの独裁制を敷く国家たちと同列に酷くなっているのも、その実例といえる。民主党の経済政策の失敗に乗じて、バカでもできる禁断の金融緩和策と国民の年金を使ったインチキ相場で「アベノミクス」などと大見得を切る。そういうたぶらかしのウラでは軍需の拡大と、自分の権力基盤の恒久化を図って自衛隊員をアメリカの人身御供に差し出すという恐ろしさである。日本の国益などとデマカセを聞かされるが、要は軍需の拡大と格差の固定化、国民の10%以下の富裕層のための政治。アメリカの共和党の東アジア劣化版政治だろう。イデオロギーは自由主義を装っているが、中身は中国共産党や北朝鮮と何も変わらない。その結果が、NHKのキャスターまで交代させ、口うるさい元官僚をニュース番組のコメンテーターから外させるという、物言えぬ社会の到来である。大越氏は左翼でもなんでもない、むしろ自民党担当記者として保守系の人物だと思えるが、自分が批判されることにヒステリックに過剰反応する幼児性の強い首相には、我慢がならなかったのであろう。警察はもとより、秘密警察的な公安が活動を活発化させ、力を持ち始めているという話もちらほら聞かれるが、そうなれば秘密保護法の拡大解釈、運用も現実化するだろう。それも人知れず。そろそろ利己的な生き方で勝ち組を目指すなどという、今の権力者を喜ばせるような悪魔を目指す生き方ではなく、弱者や自然、子どもたちに目を向ける生き方を真剣に考えて欲しい。