子どもの「くる病」増える 戦後ほぼ消えたはずでは…
朝日新聞デジタル 7月18日(土)
O脚や背中が曲がるなど、子どもの骨の発育不良を起こす「くる病」が増えている。ビタミンDの不足で発症し、栄養状態が悪かった過去の病気とみられていたが、再燃してきた。日光を過度に避けることが一因となっている。
■ビタミンD不足が主な原因
大阪府堺市の男児(3)は生後7カ月のころ、アレルギーの検査で血液中のビタミンD不足がわかった。その後、X線検査などを受け、くる病と診断された。父(48)と母(37)は「聞いたこともない病名で、不安になった」と振り返る。
くる病は、子どもの骨が軟らかいまま十分に成長できず、手足の変形や発育不全を引き起こす。骨の元になるカルシウムを体内に取り込むのに必要なビタミンDの不足が主な原因だ。
大阪大学の大薗恵一教授(小児科)の説明では、くる病は栄養が慢性的に不足していた19世紀~20世紀初頭には「ありふれた病気だった」という。その後、ビタミンDが豊富なタラの肝油をとったり、日光浴でビタミンDの合成を促したりすることが効果的だと判明。栄養状態の改善に伴って、戦後はほとんどみられなくなった。
しかし、1980年代以降、学会で症例の報告が相次ぐようになった。患者数の統計はないが、最近は小児科の開業医で診る機会もまれではないという。大阪大病院や東京大病院には、症状が比較的重い患者が年間10人ほど、ほかの医療機関から紹介されてくる。
日本小児内分泌学会は2013年、くる病を正確に診断するための小児科医向けの手引をつくった。O脚やX脚といった外見上の診断のほか、X線撮影や血液検査で確定診断する基準を定めた。
大薗さんによると、治療は、体内で働きやすい「活性型ビタミンD」の服用が基本だ。カルシウムを体内に取り込みやすくなるので、医師が定期的に経過を見ながら調整する。多くの場合、数カ月から1年程度で骨の変形が戻るという。
堺市の男児の母は、男児に母乳のみ与えていたが、ビタミンDを多く含む粉ミルクも飲ませるようにした。男児は血中のビタミンD値が正常に戻り、骨の曲がりもなく育っている。母は「ビタミンDについて妊娠中も産後も聞いた覚えがなかった。不足しないように気を付けることを広く知らせてほしい」と訴える。
大薗さんは「早期に発見できれば回復も早い。親の気付きがきっかけになることも多いので、子どもの体をよく見てほしい」と話している。■日光浴と食事で予防
くる病が増えている理由は何なのか。東京大の北中幸子准教授(小児科)は「子どものビタミンD不足は、現在の世界的な傾向だ」と語る。
体内でのビタミンDの合成は、紫外線が皮膚にあたることで進む。だが、紫外線が皮膚がんにつながることへの不安が高まり、子どもの外出を控えたり、日焼け止めを常に塗ったりして、過度に紫外線を避ける習慣が広がった。かつては母子手帳に日光浴を勧める記載があったが、現在は、屋外の新鮮な空気にふれさせる「外気浴」という言葉に置き換わっている。
交通事故や不審者など現代社会の構造的な問題だけではなく、科学や医療の世界での知見の広がりがオゾンホール拡大による紫外線皮膚がんや飛来するPM2.5、高温多湿からくる熱中症など、ある意味では子どもたちの健康を予防的に警告するようになっていることは、その反面彼らを一種の無菌室に閉じ込めるような状況を生み出している事にはなっていないだろうか?ある程度のお歳の人なら子供時代に栄養補助食品としてゼリー状の「肝油」をおやつのように食べた記憶もあるだろう。正直栄養不足が主因の「くる病」などはすっかり過去のものだと思っていたが、言われてみれば特に都市部では野外で元気に走り回る子供の姿が少なくなった気がする。少子高齢化だけではなく、前述したように親の心配が陽に焼け真ッ黒になる子供を減らしているのだと思う。それはそれで当然であるが、行き過ぎるとかつての途上国状態の栄養不足のようにビタミンDが不足するようだ。ビタミンDがカルシウム関係の代謝に重要な役割を果たしていて、日照不足、日光浴不足、過度な紫外線対策、ビタミンD吸収障害、肝障害や腎障害による活性型ビタミンDへの変換が行なわれない場合などに、ビタミンD3が欠乏し、カルシウム、リンの吸収が進まないことによる骨のカルシウム沈着障害が発生し、くる病、骨軟化症、骨粗鬆症が引き起こされることがある。ビタミンDの元になるプロビタミンD2は四位イタケなどに、ビタミンD3は魚の肝臓なのに多く含まれていて普通の食生活でも現代では男性で平均8.3μg、女性で平均7.5μgとされている必要量はとれているらしい。しかし太陽光から隔離されるような環境では、目安量の摂取では不足することが示唆されていて、例えば、潜水艦の乗組員での調査では400IU/日の摂取でも血中ビタミンD濃度を適切に維持できないとの報告があるという。結局食事からの摂取だけでなく、日光浴も大切であるということになる。ではどのくらいの陽の光を浴びるのかというと、ヒトにおいては午前10時から午後3時の日光で、少なくとも週に2回、5分から30分の間日焼け止めクリームなしで、顔、手足、背中への日光浴で、十分な量のビタミンDが体内で生合成されるとされている。この時間からすると普通に生活していてさほど日光が欠乏することはないように思えるが、前述のように夏場に過度な紫外線忌避生活が多くなること、熱中症を心配し野外で子供を遊ばせない親たちが増えていることなどから再燃し始めているのだろう。様々な情報や知見が手に入る現代だからこそ起こっている、情報の偏りからくる「予防病」なのかもしれない。こんがり焼ける必要こそ無いが、あまりセンシティブに考えすぎず、無菌状態ではなく多少は「ワイルド(といっても自然という意味だが)」な環境で保育を行うことも考えて良さそうだ。
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