大人気の自撮りアイドル、クアッカワラビーって? いたずらっ子のような笑顔がたまらない“世界一幸せな動物”
ナショナルジオグラフィック日本版 2015.03.15
つぶらな瞳にネズミのような尾、ぬいぐるみのような体、そしてにっこりと笑っているかのような顔がたまらない。オーストラリアのクアッカワラビー(Quokka
Short-tailed pademelon.Short-tailed wallaby)は、つい最近まで国外ではほとんど知られていなかった。
ところが今、そのモフモフの小さな生きものと一緒に自撮りした人々の写真がインターネットを飛び交い話題を集めている。一体クアッカワラビーとは何なのか? 始終笑っているようなその顔から、数年前には「世界一幸せな動物」と言うニックネームまで与えられた。クアッカワラビーってどんな動物?生態は?
まず、彼らは深いやぶを好み、西オーストラリア州沖に浮かぶ島の湿原や茂みをすみかとする。主にロットネスト島やボールド島に生息しているが、本島でもユーカリの森や川の土手で見られることがある。社交的な草食動物で、群れをつくって行動し、湿原に生えるペパーミントやその他の草を食べる。食べ物の少なくなる季節に備えて尾の部分に脂肪をため、トンネルを掘ってねぐらや隠れ場所を作る。そして、カンガルーのように跳ねる。実際、クアッカワラビーはカンガルーに近い有袋類だ。
ロットネスト島は、今でもクアッカワラビーの大群に出会うことのできる唯一の島である。現在、野生の個体数は1万4000匹弱、そのうち1万2000匹がロットネスト島に集中している。かつては、もっと広範囲に数多く分布していたのだが、生息地の破壊や狩猟によって激減し、今では国際自然保護連合によって絶滅危惧II類に指定されている。「ロットネスト(Rottnest)」とは、そもそも「ネズミの巣」と言う意味だ。1700年代にこの島へやってきたオランダ人船長がクアッカワラビーを初めて目にして、「大きさはイエネコくらいで、見た目はネズミのような生き物」と表現したことからその名がついた。
撮るのはいいけどお触りは違法
そのロットネスト島のクアッカワラビーたちは、観光客の黄色い声に応えてカメラにポーズをとるのをいとわない。18.9平方キロのこの島には、毎年50万人以上の観光客が訪れる。
クアッカワラビーも人間の襲来にすっかり慣れてしまい、大胆にも道路をうろついたり、アライグマのようにゴミ箱をあさる。そしてカメラに向かって笑顔を振りまく。ロシアにあるサンクトペテルブルク大学の動物学者で有袋類を専門とするエゴール・マラシチェフ氏によれば、一緒に写真を撮るのは問題ないそうだ。しかし、触れるのは違法である(抱き上げたくなる気持ちも分かるが、それももちろん禁止行為だ)。そして、より重要なのは、食べ物を与えないことである。特に、「喜んで食べるだろうという人間の勝手な思い込みで与えるのは危険」と、マラシチェフ氏は警告する。例えば、ベジマイトを塗ったサンドイッチを与えれば、おいしそうに食べるかもしれない(その姿は本当に愛らしい)。しかし、パンは歯の間に付いて、後々、あご放線菌症(Lumpy Jaw)という感染症を引き起こす恐れがあるという。「可愛らしくてか弱い動物の死を早めてしまうようなことになってしまっては悲しいことです」とマラシチェフ氏。クアッカワラビーの研究に数年間携わってきた西オーストラリア大学の保全生物学者スー・ミラー氏も、食べ物を与えることに反対する。「人間はフライドポテトやパン、果物を与えたがりますし、向こうも人間に慣れてしまっているので余計に問題なのです。観光地から離れた場所にすんでいる個体は、人が近づけば逃げてしまうでしょう」また、噛み付かれる危険性があることも忘れてはならない。そもそも、彼らは野生生物なのだ。実際、人が噛まれる事件はロットネスト島で後を絶たない。被害者は子どもが多い。ほとんどの場合は大した怪我には至らないが、たまたま子どもが持っていたおやつを奪おうとして噛まれてしまうことがある。
忍び寄る脅威
おかしな話だが、クアッカワラビーがロットネスト島で大いに繁殖したのは犯罪者のおかげと言えるかも知れない。1830年代の終わりごろ、政府は島を先住民の流刑地に指定した。そのため、他に島に立ち入る者はほとんどいなくなり、結果的にクアッカワラビーの生息地が保全されることになった。
かつては本島の西オーストラリア州にも広く分布していたのだが、人間による植民地化で生息地は破壊され、さらに害獣扱いにされて狩猟の対象になったり毒を撒かれるなどした結果、個体数は激減。生き残ったクアッカワラビーはほとんどがロットネストなどの安全で小さな島へ追いやられてしまったのである。
さらに、人間が1930年代にオーストラリアへ持ち込んだキツネが、クアッカワラビーの味を覚えてしまった。ミラー氏は、キツネとイエネコによる捕食、土地開発、孤立化した個体群の間に広がる病気や山火事が、現在クアッカワラビーを脅威にさらしている主な要因であるとしている。
オーストラリアに生息する他の動物たちも安心してはいられない。現代に絶滅してしまった哺乳類のうち、3分の1がオーストラリアとニュージーランド原産である。その中には、すでに絶滅したと見られる16の種および亜種の有袋類も含まれている。それに比べればクアッカワラビーはまだ良いほうだが、保護が必要なことに変わりはない。保全活動家たちは、少なくとも現在の個体数と分布の範囲を維持する事を目標とし、捕食動物の管理と、生息地の森林や島の環境保全に努めている。生息数の多いロットネスト島では、カメラを手にする観光客へ、マナーを守って動物に近づくよう呼びかけている。写真映えのするクアッカワラビーが、この先もずっとその笑顔を絶やすことのないよう見守っていきたい。文=Jennifer S. Holland/訳=ルーバー荒井ハンナ
基本的に動物に笑顔というのは、人間側の一方的な思い込みが生み出すものだが、なるほど、この顔は「笑顔」に見える。またサイズも行動も自撮りに適した被写体ということで人気になったのはわかる。ペットの犬猫や野良猫、野良犬が被写体として面白く人気なのはわかるけど、野生動物でも人馴れしたこのタイプの生態なら撮ってしまいたくなるのは人情。餌やり禁止などのマナーの問題を徹底することは必要だが、観光資源でもあるようだし、観光の経済効果の一部をうまい形で自然保護やクアッカワラビー保護に回して彼らの聖地を存続させて欲しいものだ。
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