ほぼ完全な人間の脳、実験室で培養成功 米大学研究
AFP=時事 8月20日(木)
各部位が認識できるオルガノイド(細胞集合体)の写真(2015年8月19日提供)
極小の人間の脳をほぼ完全な形で実験室での培養に成功したとの研究結果を米大学の科学者が18日、発表した。神経系疾患の治療に大きな進歩をもたらす可能性もあるという。
米オハイオ州立大学(Ohio State University)の報告によると、小さな脳の培養に成功したのは、同大のルネ・アナンド(Rene Anand)教授。脳の成熟度は、妊娠5週の胎児に相当するという。「それは発生中の脳のように見えるだけでなく、多様な細胞型、1個の脳に匹敵するほぼ全ての遺伝子の発現もみられる」と同教授は述べている。
オハイオ州立大によると、シャーレの中でエンドウ豆ほどの大きさになったこの脳には、多種多様な細胞や脳と脊髄の主要部位の全てが含まれているが、脈管系は存在しないという。人間の皮膚細胞から培養されたこの小さな脳については、これまでに培養されたもののなかで、最も完全型に近い脳だと主張されている。
重大な研究成果は、査読学術誌に論文が投稿され、主張の内容に対して独立した評価がなされてから公表されるのが通例となっているが、アナンド教授は、18日に米フロリダ(Florida)州で開催された軍の保健関連イベントで、今回の研究成果を発表した。
同大によると、アナンド教授は、脳や神経系の疾患に対する治療法を開発する過程で、培養された脳を用いることにより、薬剤が精神に及ぼす影響をより簡単で倫理的な実験で調べることができるようになることを期待しているという。同教授と共同研究者は、脳培養システムを製品化することを目的とした新興企業をオハイオ(Ohio)州に共同で設立している。アナンド教授は、自身の研究に関する同大の報告書の中で「この脳モデルの効力は、人間の健康に非常に明るい未来をもたらすものだ。なぜなら、治療法を試験・開発するための選択肢として、齧歯(げっし)動物を用いる以外の、より的確で関連性の高い選択肢が得られるからだ」と指摘している。
また、これは神経科学研究全般にとっても恩恵となる可能性がある。この脳を利用することで、ゲノム研究においては、現在用いられているコンピューターモデルではない実践型のアプローチを実行できるからだ。このことについては、「数学的相関法や統計的手法はそれ自体、因果関係を特定するには不十分だ。実験システム、つまり人間の脳が必要なのだ」と説明している。【翻訳編集】 AFPBB News
iPS細胞により、今や再生医療の分野が飛躍的に進展を見せているが、その周辺での技術的なイノベーションも今後は増えることだろう。細胞培養による組織培養はシステムとしてのメカニズムを解明したり、よりリアルな次元での生体反応を再現する意味では、その技術的な意味は大きい。今回のオハイオ州立大の発表では、脳組織としての成熟度は妊娠5週の胎児に相当するらしい。その中に脈管系こそ存在しないが、多様な細胞型、1個の脳に匹敵するほぼ全ての遺伝子の発現もみられるということだと、ミニチュアモデルではあるが脳研究、神経科学研究への貢献の可能性はかなり高いと考えられる。ただ脳という個別の臓器とはいえ、こういう人間の組織培養についてはいずれ多かれ少なかれ倫理的な問題が問われることになるかもしれない。特に脳という臓器は人の意識との関わりが深いだけに、その点での期待の大きさとモデル培養の倫理観との問題が取りざたされ易いかもしれません。さらには生体ニューロコンピュータなどという、一種マッドなサイエンス領域も現実化されるかも。それがどういう結果をもたらすかは、これから先の話ですが。
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